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四国西部下に沈み込むフィリピン海プレートからの脱水に伴う地下構造変化と深部低周波地震活動

【キーポイント】

汐見勝彦1・武田哲也1・上野友岳1

[1] 防災科学技術研究所

doi:10.1093/gji/ggaa423
Date: 2020-9-9

Vertical cross-section of the receiver function amplitudes and its interpretations

背景

 西南日本の下には南海トラフからフィリピン海プレートが沈み込んでおり、近い将来の巨大地震発生が懸念されています。この巨大地震の震源域となりうる場所を規定する条件として、プレートの沈み込みに伴って発生している「深部低周波地震(微動)活動」が注目されています。本研究では、四国西部で観測された大量の地震波を詳細に解析し、この深部低周波地震が発生している場所の地下構造の特徴を調査するとともに、その解釈を行いました。

データと解析方法

 解析には、四国西部に設置されている基盤的地震観測網ならびに文部科学省「南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の一環として設置した臨時観測点で得られた遠地地震の記録を用いました。
 地球の内部には地震波が伝わる速度が急変する場所があります。例えば、地殻とマントルの境界はモホロビチッチ不連続面(モホ面)と呼ばれています。このような地震波速度が不連続となる境界面を地震波が通過する時に、地震波はP波からS波、S波からP波へ変換します。本研究では、P波からS波へ変換した波の特徴を精査し、観測点の地下の様子を調べました。

結果

 地図に示したA-Bの赤枠内で観測された変換波の強度分布を、図の右側に断面図として示しました。ここで、赤は、深い方が浅部よりも地震波が速く伝わる速度不連続面、青は、深い方が浅い方よりも遅く伝わる不連続面が存在することを表しています。
 この図を見ると、太平洋側のBから瀬戸内海側のAに向かって深くなる赤い線が目立ちます。これはフィリピン海プレート内の海洋モホ面を表しています。A端から60 km以遠では、赤線の約10 km浅部に青い線が見え、その深部延長部、A端から50-70 kmのところに低周波地震(緑点)が分布していることがわかります。これらは、いずれも明瞭な赤い線(海洋モホ面)と平行に位置しています。一方、点線で囲った領域、深部低周波地震が発生している領域及びその北西側では、他の領域と比較して色が薄くなり、白く抜けている印象です。これは、この地域で変換波が励起しにくい、すなわち地震波速度の不連続が小さいことを表します。
 次に、プレート境界付近の構造を対象に、地震波速度の異方性を調べました。異方性とは、地震波が伝わる方向によってその速度がわずかに異なる特徴を指します。その結果、深部低周波地震が発生している領域ではプレートが沈み込む方向に地震波が速く伝わる傾向にあるのに対し、その領域よりも太平洋側ではプレートが沈み込む方向と直交する方向に急変していることが分かりました。

本研究の意義

 深部低周波地震が分布している場所のやや深部は、沈み込むプレートに含まれていた「水」が組成変化により放出され始める温度・圧力条件に相当します。放出された水は浅部に移動し、やがてプレートの上部に位置するマントル物質と出会い、蛇紋岩化します。蛇紋岩化したマントル物質は、通常のマントルよりも地震波速度が低下するため、沈み込む海洋地殻との速度差が低下し、変換波を励起しづらくなります。また、地震波は、蛇紋岩化したマントル物質に対し、プレートの沈み込む方向に速く、プレートの面と直交する方向(法線方向)に遅く伝わる異方性が存在することが知られています。四国下のフィリピン海プレートは非常に低角で沈み込んでいるため、プレートの沈み込む方向に地震波が速く伝わるという本研究の結果は、プレート境界付近に蛇紋岩化したマントル物質が存在することの証拠と言えます。
 深部低周波地震活動が沈み込むプレートから供給される水に起因することは以前からも指摘されていました。本研究では、プレート上部に位置するマントル物質が、水の供給を受けて強く変成されていることを示しました。このようなプレート境界付近の物質の特徴は、巨大地震の震源域を評価する上で重要な情報となります。一方、西南日本で発生する深部低周波地震活動は、地域ごとに活動度が異なることが知られています。他の地域においても同様の調査を実施し、その地域性を調査することが重要です。

本研究はJSPS科研費JP16H06475、JP16H06473の助成を受けたものです。解析には、防災科研Hi-net、F-netの他、気象庁、産業技術総合研究所、高知大学、京都大学防災研究所、東京大学地震研究所ならびに文部科学省の「南海トラフ地震調査研究プロジェクト」で設置した臨時機動観測点で得られた地震波形データ、米国地質調査所(USGS)による速報震源情報(PDE)、気象庁と文部科学省が協力して処理をした震源カタログを用いました。

掲載情報

本成果は,2020年9月8日にOXFORD ACADEMIC発行の学術誌「Geophysical Journal International」にオンライン掲載されました.

論文:Shiomi, K., Takeda, T., Ueno, T. (2020) Seismological evidence of a dehydration reaction in the subducting oceanic crust beneath western Shikoku in southwest Japan, Geophysical Journal International, ggaa423, DOI:10.1093/gji/ggaa423.