澤崎郁1・齊藤竜彦1・汐見勝彦1
[1] 防災科学技術研究所
doi:10.1029/2018JB016261
Date: 2018-10-31
要旨
地震の強い揺れによって建物が傷つくのと同様に、地盤も損傷を受けます。地盤の損傷の度合いは、地盤中を伝わる地震波(S波)速度の低下として表れます。本研究では、防災科研のKiK-net基盤強震観測網(※1)の地表と地中(300m以浅)に設置された地震計の記録を使って、地中-地表間をS波が伝わる速度を検出しました。2016年熊本地震で大きな揺れを記録した計8観測点を対象に、S波速度が熊本地震の前後でどのように変化したかを調べました。
解析の結果、ほとんどの観測点でS波速度は熊本地震の前震(Mw6.2)後に低下し、本震(Mw7.0)後にさらに低下したことが分かりました(図参照)。揺れの強い観測点ほどS波速度の低下率は高く、S波速度低下率を揺れの強さで割った「地震波速度感受性指標(※2)」という指標は、多くの観測点で前震、本震とも同じ程度の値となりました。つまり、前震と本震とで同じ程度の揺れを記録した観測点では、前震後、本震後とも同じ程度のS波速度低下率を示し、本震の方が前震よりも顕著に揺れが強かった観測点では、本震後のS波速度低下率の方が顕著に大きい傾向が見られました。一方で、S波速度低下率は地殻変動による応力変化とは相関を示しませんでした。少なくとも地盤浅部においては、地殻変動よりも地震動の強さの方がS波速度低下の支配的な要因であると考えられます。
海に近く地盤中に地下水を多く含むと考えられる観測点と、盛土に覆われて地盤の強度が弱いと考えられる観測点では、ほかの観測点と比べて地震波速度感受性指標が高いことが分かりました。つまり、これらの観測点では、同じ揺れの強さでも、地盤が受ける損傷がより大きかったと解釈できます。本震の後、全ての観測点において、S波速度は少なくとも1年以上をかけて経過時間の対数に比例しながら回復し続けました(図参照)。先述の、揺れに対して損傷を受けやすかった2観測点では、回復のスピードがほかの観測点よりも早い傾向が見られました。損傷を受けやすい地盤では回復も早いことを示唆する結果です。
本研究では、S波速度に加えて、S波偏向異方性という、S波速度が振動方向により異なる現象についても調査しました。S波偏向異方性が強いほど、地盤中の亀裂が発達し、同じ方向に沿う傾向があります。解析の結果、熊本地震の後にS波偏向異方性はわずかに増加する傾向が見られたものの、有意性には乏しいものでした。おそらく、地震動により地盤中の亀裂があらゆる向きに同様に伸展したため、S波速度の低下は大きいものの、S波偏向異方性の強さはあまり変わらないという結果を示したと考えられます。
以上のように、地震動が地盤にどのような影響を及ぼしたかを長期間にわたり調べることで、地すべりや液状化などの地盤災害を軽減するための基礎的な情報を得ることができると考えられます。
掲載情報
本成果は,2018年10月31日に米国地球物理学連合(American Geophysical Union) 発行の学術誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」にオンライン掲載されました.
論文:Sawazaki, K., Saito, T., and Shiomi, K. (2018) Shallow Temporal Changes in S Wave Velocity and Polarization Anisotropy Associated With the 2016 Kumamoto Earthquake Sequence, Japan,
Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 123(11), 9899-9913
DOI:10.1029/2018JB016261.
備考
本研究はJSPS科研費17K14385の助成を受けたものです。解析には、防災科研KiK-netと、気象庁と文部科学省が協力して処理をした気象庁一元化震源カタログを用いました。
用語の説明
※1
基盤強震観測網KiK-net
全国約700箇所に設置されている、被害を及ぼすような強い揺れを計測可能な強震計の観測網です。地表と地中(井戸底。深さは観測点により異なり、100mから3510mまで)に設置されているため、地盤による地震波の増幅を捉えることができます。
https://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/docs/kyoshin_index.html
https://doi.org/10.17598/NIED.0004
※2
地震波速度感受性指標
地震の揺れの強さに対して、S波速度がどれくらい低下するかを示す指標。この指標が高い地盤ほど、同じ強さの揺れに対してより損傷しやすいと考えられます。