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2016年熊本地震による地殻内エネルギーの増減を3次元的に推定

【キーポイント】

野田朱美1・齊藤竜彦1・福山英一1,2・寺川寿子3・田中佐千子1・松浦充宏4

[1] 防災科学技術研究所, [2] 京都大学大学院工学研究科, [3] 名古屋大学大学院環境学研究科, [4] 統計数理研究所

doi:10.1029/2019GL086369
Date: 2020-1-27

せん断歪みエネルギーの増減パターンと余震活動の比較(深さ3kmごと)。灰色の実線・点線が2016年熊本地震の震源断層を示す。赤色がせん断歪みエネルギーが増加した場所、青色が減少した場所を表す。緑色の丸は余震の発生場所を示している。多くの余震が、せん断歪みエネルギーの増加した場所(赤色)で発生したことが分かる。

背景

 従来から、地震の発生によって、地殻内に蓄えられた歪みエネルギーが消費されることが知られていました。しかし、これまでの研究では、地震の発生に使われるエネルギーの総量に主眼が置かれ、エネルギーの空間的な変化、つまり地下の各地点でのエネルギーの変化が見積もられることは、ほとんどありませんでした。

 我々は、地震の発生に深く関与していると考えられる「せん断歪みエネルギー」に注目し、2016年に発生した熊本地震により地殻内のせん断歪みエネルギーがどのように変化したのか、3次元的に推定することを試みました。

問題点と解決策

 せん断歪みエネルギーの空間的な変化を見積るには、地震前の地殻応力と、地震による応力変化を知る必要があります。地震時の応力変化は震源断層モデルから計算することができますが、地震前の地殻応力の大きさを知ることは現時点では難しく、せん断歪みエネルギーの空間的な変化を見積る上での障壁となっていました。そこで、地殻応力の大きさに関して幾つかの候補を設定し、それぞれの場合についてせん断歪みエネルギーの変化を計算しました。

成果

 その結果、せん断歪みエネルギーの増減は、地震前の地殻応力の大きさに依存することが分かりました。特に、地震前の地殻応力の設定が小さすぎると、地殻内のせん断歪みエネルギーの総量が増加してしまい、「地震が地殻内のエネルギーを消費する」という事実と矛盾が生じます。この矛盾が生じないことを条件として、地殻応力の下限値(深さ10 kmで14 MPa 以上)を見積もることができました。

 最終的に得られたせん断歪みエネルギーの空間変化を図に示します。地殻内の総量としては減少しますが、局所的に見ると増加した場所があることが分かりました。さらに、この結果と熊本地震の本震後の余震活動を比較し、せん断歪みエネルギーが増加した場所で余震が顕著に活発化したことを明らかにしました。

本研究は、防災科学技術研究所の研究プロジェクト「巨大地震発生メカニズム研究」と、JSPS科研費JP18K03809の助成を受けたものです。

掲載情報

この成果は、米国地球物理学連合 (American Geophysical Union) 発行の学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました(オンライン公開:2020/01/21)。

論文:Akemi Noda, Tatsuhiko Saito, Eiichi Fukuyama, Toshiko Terakawa, Sachiko Tanaka, and Mitsuhiro Matsu'ura. (2020), The 3‐D Spatial Distribution of Shear Strain Energy Changes Associated with the 2016 Kumamoto Earthquake Sequence, Southwest Japan, https://doi.org/10.1029/2019GL086369