防災科研へのリンク

2024年8月8日日向灘の地震の高信頼度震源断層モデル推定に向けた海陸データ統合解析

【キーポイント】

久保田達矢1久保久彦1・齊藤竜彦1

[1] 防災科学技術研究所

doi:10.1029/2025GL115391
Date: 2025-04-23

本研究により推定された,2024年8月8日の日向灘の地震のすべりの分布.(a) 沖合津波 データと陸上GNSSデータの統合解析による結果.(b) 沖合津波データのみを用いた結果.(c) 陸上GNSSデータのみを用いた結果.色が赤いほど,すべり量が大きい.すべり量のコンター線の間隔は0.5 m.三角形は沖合の津波観測点の位置を,四角形は陸上のGNSS観測点の位置を表す.星印はこの地震の震央の位置を表す.小さい丸は余震分布を表し,その色は発生した深さを示す.

背景

 アスペリティモデルとは震源断層面上での固着の不均質性を表す概念であり,非地震時には強く固着して周囲よりもすべりが遅れている状態にあり,かつ,地震時にその固着を解放して大きなすべりを起こす領域のことをアスペリティと呼ぶ.沈み込み帯で発生するプレート間地震に関連するハザードの見積もりにおいて,アスペリティの分布を明らかにし,プレート境界でのすべり遅れの蓄積と解消のプロセスといったプレート間の固着状態を定量化することは重要である.2024年8月8日,南海トラフ沈み込み帯の最西端に位置する宮崎県沖の日向灘の海域において,マグニチュード(M)7.1の地震が発生した.日向灘では,過去にもM7前後の規模の地震が発生しており,この地震の震源はそれら過去の地震の震源域に近い.
 この海域において,地震の発生直前の7月より運用を開始していた防災科学技術研究所の南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)の海底圧力計が,最大数センチメートルの津波を記録した.沖合で記録される津波は,検潮記録と異なり,沿岸域の複雑な地形の影響を受けないため,地震時に破壊した震源断層の広がりを高い信頼度で推定することができるという利点がある.また,国土地理院により展開されている全球測位衛星システム(GNSS)の観測網であるGEONETが,この地震に伴う地殻変動も記録した.GNSSには,陸上の変位を高い精度(水平変位で数mmの精度)で記録できるという利点がある.本研究では,2024年の日向灘で発生した地震の震源断層を,これらのデータを用いて推定し,さらに,2024年地震と過去の地震の破壊域の空間的関係を明らかにして,この海域におけるプレート境界の固着について議論した.

解析と結果

 本研究では,震源域の周辺海域に展開されたN-netに加えて,南海トラフ沈み込み帯の東側に展開された地震・津波観測監視システム(DONET)の津波観測データを用いた.沖合の津波と陸上のGNSSデータの統合解析の結果,すべりを生じた断層の広がりはおよそ40 km × 20 kmであり,その領域での平均すべり量は1.2 mと推定された(図a).それぞれのデータの分解能を評価するために,沖合津波データのみ,陸上GNSSデータのみを用いて解析をおこなったところ,津波データのみを用いた場合には断層の東側(沖側)の広がりは統合解析の結果と同様だったのに対し,断層の西側(陸側)はより広がって推定された(図b).この結果は,陸上で起こる上下変位は津波を生じさせないため,津波データには陸の直下の断層の広がりを精度良く推定する能力がないことを示唆する.反対に,陸上のGNSSデータのみを用いた場合には,断層の陸側の広がりは統合解析と同様だったのに対し,沖側のすべりはより広く推定された(図c).これは,陸から遠く離れた沖合のすべりを,陸上のGNSSデータで精度良く拘束することが難しかったと解釈される.これらの結果は,断層の東西(沖側・陸側)の両方の広がりを精度良く求めるためには,沖合の津波と陸上のGNSSの両者のデータを合わせて用いることが重要であることを意味する.

過去の地震活動との関連とプレート間の固着状態

 この領域では,過去にもマグニチュード7前後の地震がくり返し発生してきた.過去の地震の震源域との位置関係を比較したところ,2024年の地震では,1961年のM7.0の地震と同一のアスペリティを再破壊したとみられる.一方で,震源断層の位置関係から,2024年の地震は,1996年に発生した2つの地震(M6.9,M6.7)のアスペリティを破壊していないと解釈される.仮に,1961年の地震の際にアスペリティがひずみを解消し,その後,約60年が経過して,周囲よりもすべりが遅れている状態にあって,2024年にふたたび破壊を生じて平均1.2 mのすべりを起こしたと考えると,このアスペリティでは1年あたり2 cmのすべり遅れを蓄積していたと見積もられる.一方で,この領域のプレートの沈み込み速度は1年あたり約6 cmであり,このことから,プレートの固着率(年間あたりのすべり遅れの蓄積量を,プレートの沈み込み速度で割ったもの)は0.4程度と見積もられる.これは,巨大地震を引き起こす南海トラフ海域で見積もられる値(ほぼ1に近い値)に比べてはるかに小さい.プレートの沈み込みによって生じるすべり遅れのうち40 %はくり返し生じるM7前後の地震によって解消されるが,残りは,たとえば非地震性のゆっくりすべりなどの別の要因によって解消されていると考えられる.その要因を詳細に明らかにするためには,さらなる研究が必要となるだろう.

本研究は,JSPS科研費JP22K14126,JP23K26360,JP24K01137,JP24H00258の助成を受けました.

掲載情報

本成果は,2025年4月23日に米国地球物理学連合 (American Geophysical Union, AGU) 発行の学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました (https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/2025GL115391).

論文:Kubota, T., Kubo, H., &Saito, T. (2025). Reliable fault modeling of an Mw 7.1 earthquake in Hyuganada Sea on 8 August 2024 by offshore tsunami data from new seafloor network N-net and onshore GNSS data. Geophysical Research Letters, 52, e2025GL115391. https://doi.org/10.1029/2025GL115391

図の説明

本研究により推定された,2024年8月8日の日向灘の地震のすべりの分布.(a) 沖合津波データと陸上GNSSデータの統合解析による結果.(b) 沖合津波データのみを用いた結果.(c) 陸上GNSSデータのみを用いた結果.色が赤いほど,すべり量が大きい.すべり量のコンター線の間隔は0.5 m.三角形は沖合の津波観測点の位置を,四角形は陸上のGNSS観測点の位置を表す.星印はこの地震の震央の位置を表す.小さい丸は余震分布を表し,その色は発生した深さを示す.