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2023年10月の鳥島近海津波を引き起こした繰り返す海底隆起

【キーポイント】

久保田達矢1三反畑修2・齊藤竜彦1・松澤孝紀1

[1] 防災科学技術研究所 [2] 東京大学地震研究所

doi:10.1029/2024GL108415
Date: 2024-06-25

本研究により推定された,津波を生じさせた14回の海面変動それぞれの分布.1番目から14番目までの各イベントによる海面変動と,全イベントの海面変動の総和を示している.また,過去の海底地形調査による海底地形も重ねて表示した.海底地形調査により確認された円状のカルデラ地形の中心をバツ印で,カルデラ壁の位置を灰色の円で示している.

背景

 2023年10月8日 (UTC),津波を引き起こすような顕著な地震を伴わずに,日本周辺の沿岸で顕著な津波が観測された.このとき,伊豆・小笠原諸島にある孀婦岩と呼ばれる海底火山の周辺において,1時間半ほどのあいだにマグニチュード5前後の地震が立て続けに14回発生していた.これまでの研究から,この一連の地震が起こっていた時間帯に孀婦岩の周辺で津波がくり返し発生し,それらの津波の発生タイミングは14の地震と同期していたことが明らかとなったが,津波を生じさせた海底変動の分布や時間履歴までは明らかとなっていなかった.本研究は,この津波の発生メカニズムのさらなる理解に向け,津波波源の水平位置と分布,海底変動履歴を詳細に推定し,その発生のメカニズムを議論した.

解析と結果

 本研究では,孀婦岩から600 km以上はなれた日本列島の周辺の海底観測網が記録した津波波形データを用いて,くり返し発生した14の津波(以後,イベント)のもととなった海面変動分布を推定した(図).解析の結果,各イベントの海面変動は隆起が支配的で,各イベントの隆起量は時間経過とともに徐々に増加し,最終的にひとつの大きな隆起となった.各イベントの隆起の中央はほぼ同じ位置にあり,孀婦岩の約20 km西方に位置する.この場所には,過去に実施された海底地形調査において,海底カルデラ地形が確認されており,このことから,同一の海底カルデラが繰り返し隆起したことによって津波が生じたことが示唆される.

繰り返し津波を引き起こした原因の考察

 これまで,他のカルデラの噴火直前の活動において,微小地震の発生数の増加や,前駆的な地震活動の発生間隔の減少といった加速的プロセスが報告されており,本研究によって推定された徐々に加速する海底隆起現象とも似ている.また,近年では,今回の津波と同様に,さほど大きくない規模の地震に伴って顕著な津波が生じた事例がいくつか報告(1, 2)されており,それらの津波は海底カルデラ火山の活動に伴って生じたと指摘されている.これらの特徴は本解析によって推定された海底カルデラの位置で生じた海底隆起と矛盾しないことから,今回の津波は海底カルデラが原因となって生じた可能性が高い.
 海底カルデラの活動によって海底の地殻変動が生じるメカニズムはいくつか考えられる,たとえば,カルデラ直下の過剰圧状態となったマグマだまりがカルデラの底を急激に押し上げることでカルデラ全体を隆起させる現象が報告されており,今回の津波もこれと同様のメカニズムによる海底隆起が原因の可能性がありうる.しかしながら,本解析で使用したデータが津波発生域から遠く離れていたこともありその詳細までは明らかにすることは難しく,真の原因を明らかにするには今後のさらなる調査や研究が必要となるだろう.

本研究の意義

 今般の津波では,複数回の津波イベントがくり返し起こったという結果が得られた.これまでに報告されてきた海底カルデラの活動に伴って津波が生じた事例では,今回とは違って一度の海底変動だけで津波が生じていた.この違いは,孀婦岸そばの海底カルデラでの火山活動のプロセスが他の海底カルデラとは異なることを意味している可能性があり,海底カルデラの活動の多様性を示唆しているのかもしれない.日本周辺の伊豆小笠原諸島をはじめ,海底には多くのカルデラが存在する.このくり返し起こる隆起がこのカルデラのみで起こった理由や,他のカルデラでは起こらない理由が明らかになれば,海底カルデラにおける津波発生のメカニズムやそのもととなる火山活動の理解がさらに深まると期待される.本研究はその一端を担ったものであると言えるだろう.

本研究は,JSPS科研費JP21H05206,JP22K14126,JP23K26360,JP24K17141の助成を受けました.

掲載情報

本成果は,2024年6月25日に米国地球物理学連合 (American Geophysical Union, AGU) 発行の学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました (https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/2024GL108415).

論文:Kubota, T., Sandanbata, O., Saito, T., & Matsuzawa, T. (2024). Accelerating seafloor uplift of submarine caldera near Sofugan Volcano, Japan, resolved by distant tsunami recordings. Geophysical Research Letters, 51, e2024GL108415. https://doi.org/10.1029/2024GL108415

図の説明

本研究により推定された,津波を生じさせた14回の海面変動それぞれの分布.1番目から14番目までの各イベントによる海面変動と,全イベントの海面変動の総和を示している.また,過去の海底地形調査による海底地形も重ねて表示した.海底地形調査により確認された円状のカルデラ地形の中心をバツ印で,カルデラ壁の位置を灰色の円で示している.