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震源域直上で得られた津波波形記録にもとづく断層モデル推定と2011年東北沖地震の浅部大すべりの力学的メカニズム

【キーポイント】

久保田達矢1・齊藤竜彦1・日野亮太2

[1] 防災科学技術研究所 [2] 東北大学

doi:10.1186/s40645-022-00524-0
Date: 2022-12-5

東北プレート境界における運動学・力学的特性の解釈.(左) 運動学的視点に基づくプレート境界沿いの地震活動の描像と解釈.東北沖地震時 (マゼンタ) および地震後(シアン) のすべりの空間的な関係を示している.(右) 力学的視点にもとづく描像と解釈.プレート境界が力学的に固着している領域を赤で,力学的固着が弱い領域を青で示す.

背景

 2011年東北地方太平洋沖地震(東北地震)では,宮城沖のプレート境界浅部において50 mを超える大すべりが生じ,大きな津波を引き起こした.従来,プレート境界の浅部はプレート間の固着が弱く(安定すべり域),地震の原動力となる応力を蓄えることができないために地震すべりを起こさないと考えられていた.それにもかかわらず東北地震において非常に大きな浅部すべりが生じたためその原因がこれまで広く考察されてきたが,その決定的な答えは明らかとなっていない.この浅部の大すべり原因を明らかにすることは,巨大地震の津波発生のメカニズムの理解には不可欠である.東北沖地震発生時,震源域の直上の海域には,東北大学の研究グループにより,海底水圧計が複数設置・展開されており,それらが東北地震に伴う津波を明瞭に観測した.プレート浅部での断層すべりは深い場所でのすべりに比べて津波を効率的に励起することから,津波の記録は浅部すべりを詳細を明らかにするのに有効である.本研究では,震源域直上の水圧計による津波の記録,および海陸の地殻変動観測データをもとに,高解像度な東北地震の震源断層モデルを推定して,この浅部の大すべり原因を議論した.

結果

 解析により得られた断層モデルからは,宮城沖の領域に海溝軸まで進展する大すべりが推定され,最大すべり量は海溝軸ごく近傍において約53 mとなった.断層モデルに基づいて断層面上でのせん断応力変化 (応力降下) を計算すると,海溝軸の付近では応力降下は小さく (< 3 MPa) ,深部の震源近傍に大きな応力降下 (> 5 MPa) が得られた.この応力降下の分布は,浅部の大すべりを伴った東北地震の原動力となった歪みエネルギーは,大すべりを起こした浅部ではなく,深部のプレート間の力学的固着領域に蓄積されていたことを示唆する.

 本解析結果は,浅部のプレート境界は応力を解放することなく大すべりを引き起こすことができることを意味する.この解析結果は,一見すると,従来の浅部は安定すべり域であり応力を蓄積しないとする考えに矛盾しているようにも見える.しかし,地震間プロセスにおいてプレート境界深部の力学的固着が浅部側を支えることにより,そこですべり遅れを生じると考えれば合理的に解釈可能できる.この深部固着による浅部すべり遅れが東北地震時の浅部大すべりの要因であると考えられる.この考えは,東北地震前から考えられてきた,浅部は安定すべり域のために応力を蓄積しないとする考えと矛盾しない.

本研究の意義

 今回の結果は,深部に蓄積された歪みエネルギーが浅部の大すべりの要因となりうることを示している.これを踏まえると,東北日本以外の沈み込み帯においても,プレート深部に歪みエネルギーが十分に蓄積されていれば,浅部が固着していなくとも大きなすべりを起こすことがありうる.他の沈み込み帯で浅部大すべりが生じうるかどうかを事前に把握するためには,地震の原動力となる,プレート境界における歪みエネルギーや応力の蓄積状況を詳細に把握することが重要であろう.

本研究は,JSPS科研費JP19H02409,JP19H05596,JP19K04021,JP19K14818,JP22K14126の助成を受けました.

掲載情報

本成果は,2022年12月5日に日本地球惑星科学連合 (Japan Geoscience Union, JpGU) が発行する学術誌「Progress in Earth and Planetary Science」に掲載されました (https://progearthplanetsci.springeropen.com/articles/10.1186/s40645-022-00524-0).また,当該論文の日本語要旨が,当該学術誌のホームページにおいて公開されています (http://progearthplanetsci.org/highlights_j/296.html).

論文:Kubota, T., Saito, T., & Hino, R. (2022). A new mechanical perspective on a shallow megathrust near-trench slip from the high-resolution fault model of the 2011 Tohoku-Oki. Progress in Earth and Planetary Science, 9, 68.
https://doi.org/10.1186/s40645-022-00524-0

図の説明

東北プレート境界における運動学・力学的特性の解釈.(左) 運動学的視点に基づくプレート境界沿いの地震活動の描像と解釈.東北沖地震時 (マゼンタ) および地震後(シアン) のすべりの空間的な関係を示している.(右) 力学的視点にもとづく描像と解釈.プレート境界が力学的に固着している領域を赤で,力学的固着が弱い領域を青で示す.