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S-net広域・稠密津波観測網が明らかにした東北沖の大陸プレート内部の応力状態

【キーポイント】

久保田達矢1久保久彦1・吉田圭佑2近貞直孝1・鈴木亘1・中村武史3・対馬弘晃4

[1] 防災科学技術研究所, [2] 東北大学, [3] 電力中央研究所, [4] 気象庁気象研究所

doi:10.1029/2021JB022223
Date: 2021-10-13

(左) S-netの観測点の配置と福島県沖の領域の拡大図,および代表的な観測点で記録された津波の波形.2016年の福島県沖の地震の震央位置を星印で示す.(右上) S-netの全観測点を使用した場合に推定される2016年福島県沖の地震のすべり分布.色の濃淡はすべり量を示し,すべり量100cmごとに等値線 (コンター線) を描いている.(右下) 震源域から遠い観測点のみ使用した場合のすべり分布.

背景

 東北地方はプレート同士がぶつかり合う「沈み込み帯」に位置します.2011年に発生した東北地方太平洋沖地震 (東北沖地震) は,この沈み込み帯で発生したプレート境界型地震でした.東北沖地震の発生を受け,東日本の沖合には日本海溝海底地震津波観測網 (S-net) が整備されました.

 2016年11月22日,福島県の沿岸から50 kmほど沖合の大陸プレート内部でマグニチュード7.1の地震が発生しました。宮城県・福島県をはじめとする太平洋沿岸で津波が観測されましたが,このとき,S-netの津波計も津波を観測しました (図・左).本研究では,このS-net津波のデータを解析し,断層のどこがどれだけずれ動いたか (すべり分布)の推定を試みました.

結果

 S-netの記録の解析により得られたすべり分布を図・右上に示します.地震時に大きくすべった範囲は25 km × 20 kmほどに広がっており,なかでも特に大きくすべった領域がすべり領域のやや北側にあることが分かりました.

 S-net観測点は震源域を取り囲むように広範囲に分布しており,かつ震央のすぐそばで津波を観測しました.一方で,図・右下は,震源域から遠く離れた観測点の記録のみ使って推定したすべり分布です.震源域から遠くにしか観測点がないと,近くの観測点を使った結果と比べてぼやけたすべり分布になりました.これは震源域近くの記録を使っていないためにすべりの様子が詳しく解像できていないことを意味し,震源域そばの観測点が詳しいすべりの様子を知るために重要であることを意味します.

すべり分布から見えたもの

 地中深くにある岩石は,外から様々な力を受けて変形しています.その変形に耐えきれなると,変形を解消するようにずれ動きます.これが地震です.この変形の度合いのことを「ひずみ」といい,このとき岩石が蓄えている力のことを「応力」といいます.地震時のすべり分布が得られると,その地震を引き起こした断層にどのようにひずみや応力が蓄えられていたのかが分かります.2016年の福島県沖の地震の震源周辺では,2011年の東北沖地震によってひずみが増加し,地震が起こりやすくなったことが過去の研究で報告されてきました.しかし,2016年福島県沖の地震のすべり分布をもとに地震時に解消されたひずみを計算したところ,2011年東北沖地震により増加したひずみよりも大きなひずみを解消していたことが分かりました.このことから,2011年東北沖地震によるひずみ増加が2016年福島県沖の地震の直接の原動力になったのではなく,東北沖地震の前からすでにある程度のひずみが蓄えられており,東北沖地震が地震発生の「最後のひと押し」となったと考えられます.

東北沈み込み帯の今後

 沖合の地震の詳しいすべり像が分かると、東北沖地震が東北の沈み込み帯の地震活動に及ぼした影響の理解につながります.東北沖地震に関して,未解明の謎はまだ多く残されています.S-netは現在,東北沖の広範囲に展開されて沿岸津波予測に利用されています.この研究は,S-netのデータが,津波予測だけでなく,東北沖地震と関連する諸現象の理解をより深めるためにも非常に重要なものであることを示した研究です.

本研究は,JSPS科研費JP19H02409,JP19K14818の助成を受けました.

掲載情報

本成果は,2021年10月13日に米国地球物理学連合 (American Geophysical Union, AGU) 発行の学術誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」に掲載されました.

論文:Kubota, T., Kubo, H., Yoshida, K., Chikasada, N. Y., Suzuki, W., Nakamura, T., & Tsushima, H. (2021). Improving the constraint on the Mw 7.1 2016 off-Fukushima shallow normal-faulting earthquake with the high azimuthal coverage tsunami data from the S-net wide and dense network: Implication for the stress regime in the Tohoku overriding plate. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 126, e2021JB022223. https://doi.org/10.1029/2021JB022223

図の説明

(左) S-netの観測点の配置と福島県沖の領域の拡大図,および代表的な観測点で記録された津波の波形.2016年の福島県沖の地震の震央位置を星印で示す.(右上) S-netの全観測点を使用した場合に推定される2016年福島県沖の地震のすべり分布.色の濃淡はすべり量を示し,すべり量100cmごとに等値線 (コンター線) を描いている.(右下) 震源域から遠い観測点のみ使用した場合のすべり分布.