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海底水圧計が記録した2011年東北地震の震源直上の地震動

【キーポイント】

久保田達矢1・齊藤竜彦1・対馬弘晃2・日野亮太3・太田雄策3・鈴木秀市3・稲津大祐4

[1] 防災科学技術研究所, [2] 気象庁気象研究所, [3] 東北大学, [4] 東京海洋大学

doi:10.1029/2020GL091664
Date: 2021-3-10

(a) 2011年東北沖地震時に震源域の周辺に設置されていた海底水圧計の観測点の位置.白い星は東北沖地震の震央,CMT解はGlobal CMT のものを表す.オレンジ色のコンター線は東北沖地震時の津波の波源の分布を表す.(b) 本解析により分離された東北沖地震時の震源直上の上下動変位の地震動 (周期 ≥ 20 s,赤線).震源の真上に設置された観測点P08,P09で得られた変位波形に見えた2段階の変動を青と緑の矢印で示している.

背景

 沖合の海底に設置された水圧計は,地震によって生じる津波 (海面の水位変化) や海底の永久変位に伴う水深の変化を観測できるため,これまで多くの研究に活用されてきた.水圧計はこのほかにも地震動に起因する短周期な変動も記録しているが,実際の水圧記録は地震波・津波・永久変位成分が混在しているため,純粋な地震動波形記録として研究に利用するのは難しかった.

 近年,震源域内の津波発生場に関する理論研究や,震源直上の複雑な水圧変動記録を再現計算する手法が確立しつつある.本研究はそれらの研究を応用し,震源域内に設置された水圧計の記録を津波成分と地震動成分に分離する手法を考案し,2011年東北地方太平洋沖地震 (東北沖地震) 時の水圧記録 (図1a) から,震源の直上の地震動記録の抽出を試みた.

結果

 本手法により海底水圧計から抽出された上下動変位の時系列を図1bに示す.過去の津波の解析から海底が大きく隆起した領域内に設置されている海底水圧計の観測点 (GJT3,P08,P09) では,海底が大きく隆起したことを示す大きな変位オフセットが得られ,津波解析の結果と整合的であった.また,震源の直上にある観測点P08,P09では,海底の変位が2段階のステージにわけて起こったことが見えた (図1b,矢印).これは東北沖地震の震源の周辺で2度の破壊が起こったと解釈される.この2度の破壊は,多くの先行研究が求めた東北沖地震の破壊過程とも整合する.

本研究の意義

 今後,いくら観測装置を新しく展開しても東北沖地震の観測データが新しく増えることはない.当時の記録を丹念に見返し,これまで見出されていなかった重要な情報を取り出すことが重要である.これまで,東北沖地震のような巨大地震に伴う震源ごく近傍の海底の地震動記録が得られたことは世界的にもなく,巨大地震の震源直上の地震動記録を初めて得たこと自体に意義がある.震源直上の地震動記録があると,遠く離れた陸での記録では見えなかった東北沖地震の破壊の過程が詳しく見えるようになるため,東北沖地震に関する研究がさらに発展すると期待される.本研究は,海底水圧計が記録する短周期な地震動成分のさらなる活用可能性を示した重要な研究である.

本研究は,JSPS科研費JP20244070,JP26000002,JP15K17752,JP19H00708,JP19H02409,JP19H05596,JP19K0402,JP19K14818の助成を受けました.

掲載情報

本成果は,2021年3月10日(日本時間3月11日)に米国地球物理学連合 (American Geophysical Union, AGU) 発行の学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました (https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/2020GL091664).

論文:Kubota, T., Saito, T., Tsushima, H., Hino, R., Ohta, Y., Suzuki, S., & Inazu D. (2021). Extracting near-field seismograms from ocean-bottom pressure gauge inside the focal area: application to the 2011 Mw 9.1 Tohoku-Oki earthquake. Geophysical Research Letters, e 2020GL091664. https://doi.org/10.1029/2020GL091664

図の説明

(a) 2011年東北沖地震時に震源域の周辺に設置されていた海底水圧計の観測点の位置.白い星は東北沖地震の震央,CMT解はGlobal CMT のものを表す.オレンジ色のコンター線は東北沖地震時の津波の波源の分布を表す.(b) 本解析により分離された東北沖地震時の震源直上の上下動変位の地震動 (周期 ≥ 20 s,赤線).震源の真上に設置された観測点P08,P09で得られた変位波形に見えた2段階の変動を青と緑の矢印で示している.