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2011年東北沖地震後の沈み込むプレートの応力場の変化

【キーポイント】

久保田達矢1・日野亮太2・稲津大祐3・鈴木秀市2

[1] 防災科学技術研究所, [2] 東北大学, [3] 東京海洋大学

doi:10.1186/s40645-019-0313-y
Date: 2019-12-26

宮城沖の沈み込むプレート内における応力深さプロファイルの時間変化の模式図.;赤色は深部における水平圧縮応力(逆断層型地震活動)を,青色は浅部における水平引張応力(正断層型地震活動)を表す.正断層型地震発生下限深さは2011年東北沖地震後に有意に深くなっている.

背景

 2012年12月7日に,日本海溝の近傍の太平洋プレート内部で2つのサブイベントからなる地震 (以下,ダブレット地震) が発生した.先行したサブイベント (Mw 7.2) はプレート内深部で発生し逆断層型の発震機構,もう一つ (Mw 7.1) は約10秒後に浅部で発生し正断層型の発震機構をもつ.海溝軸近傍でのプレート内では,沈み込むプレートの折れ曲がりによって浅部と深部それぞれで引張・圧縮の応力場が発達していることが知られている (以下,折れ曲がり応力).

 防災科学技術研究所,東北大学,東京海洋大学の研究グループは,ダブレット地震を構成する2つのサブイベントについて,震源域の近傍で得られた津波記録と,遠地地震波形および余震分布をすべて説明する詳細な断層モデの推定を試みた.さらに,推定された震源断層モデルと周辺で発生した地震活動の比較から,2011年東北沖地震後のプレート内折れ曲がり応力場,およびその東北沖地震による応力場の変化を考察した.

本研究の成果

 深部逆断層型サブイベントと浅部正断層型サブイベントの断層の深さ方向の広がりは,それぞれ45〜70 kmおよび5〜35 kmと推定された.浅部の正断層型地震の発生下限深さ (約30〜35 km) は,2007年の海底地震観測に基づく正断層型地震活動の下限 (約25 km) に比べて有意に深く,東北沖地震により正断層型地震の発生範囲が変化したと考えられる (図).

 東北沖地震の地震時すべり量分布から期待される東北沖地震による水平引張の静的応力変化の大きさはダブレット地震の震源域では20 MPa程度であるが,震源域の岩石の摩擦強度を0.6と仮定すると,推定された地震発生域の深さ変化を説明するには300MPaにもおよぶ応力が必要となってしまう.東北沖地震前後での正断層型地震発生層下限の深さ変化を東北沖地震による応力変化で説明するには,正断層型地震が発生する範囲での摩擦係数は大きくとも0.2でなければならない.これは,プレート内の断層に沿って間隙流体が深さ30〜35 kmまで浸透しているために岩石のせん断強度が大幅に低下している可能性を示唆する.曲げ変形によるひずみ速度が遅いプレート内深部では定常的な地震活動が低いが,摩擦強度が低下しているために東北沖地震による応力変化で正断層型地震の活動が顕在化したと解釈される.

本研究は,防災科学技術研究所の研究プロジェクト「地震・津波予測技術の戦略的高度化研究」において進められました.また,JSPS科研費JP20244070,JP26000002およびJP 19K14818,および日本科学協会の笹川科学研究助成 (2019-2037) の助成を受けて進められました.
海底圧力計の設置・回収にあたっては,気象庁の研究船「凌風丸」および「啓風丸」を用いて実施されました.

掲載情報

本成果は,2019年12月26日に日本地球惑星科学連合 (Japan Geoscience Union, JpGU) 発行の学術誌「Progress in Earth and Planetary Science」に掲載されました (https://progearthplanetsci.springeropen.com/articles/10.1186/s40645-019-0313-y).また,当該論文の日本語要旨が,当該学術誌のホームページにおいて公開されています (http://progearthplanetsci.org/highlights_j/296.html).

論文:Kubota, T., Hino, R., Inazu, D., & Suzuki, S. (2019). Fault model of the 2012 doublet earthquake, near the up-dip end of the 2011 Tohoku-Oki earthquake, based on a near-field tsunami: implications for intraplate stress state. Progress in Earth and Planetary Science, 6, 67. https://doi.org/10.1186/s40645-019-0313-y

図の説明

宮城沖の沈み込むプレート内における応力深さプロファイルの時間変化の模式図.;赤色は深部における水平圧縮応力(逆断層型地震活動)を,青色は浅部における水平引張応力(正断層型地震活動)を表す.正断層型地震発生下限深さは2011年東北沖地震後に有意に深くなっている.