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沿岸反射した津波記録から地震の震源像を高い精度で推定することに成功

【キーポイント】

久保田達矢1・齊藤竜彦1・伊藤喜宏2・Yoshihiro Kaneko3,Laura M. Wallace34・鈴木秀市5・日野亮太5・Stuart Henrys3

[1] 防災科学技術研究所, [2] 京都大学防災研究所, [3] GNS Science, [4] テキサス大学オースティン校, [5] 東北大学

doi:10.1029/2018JB015832
Date: 2018-9-19

(a) 2016年テ・アラロア地震の震源断層と津波波源の波高分布.(b) 海底圧力計により観測された津波記録 (黒線) と,(a) の断層から計算された津波波形 (赤線).

背景

 地震の震源像 (例:震源の位置や断層面のすべりの分布,地震時に解放された応力の大きさ) を正しく推定することは,地震発生メカニズムの理解や地震ハザードの評価に不可欠な地殻内部の物理状態 (例:応力蓄積状況・摩擦状態) を知るために重要です.

 2016年9月にニュージーランド北島のテ・アラロアから北東に沖合約100kmでマグニチュード(Mw)7.0の地震(テ・アラロア地震)が発生しました.しかし,この地震は震源が陸から遠かったため、これまで陸上の地震計からでは詳細な震源像を得ることができていませんでした.この地震の発生時、震源から約170km南に設置された海底圧力計により津波 (震源域からの直立波および沿岸反射した津波,振幅1~2cm程度) が明瞭に記録されました (図).このような沿岸反射波が明瞭に捉えられた事例は少なく,かつ沿岸での複雑な津波の反射過程を再現することは容易ではなかったことから,これまで沿岸反射波は震源像の推定には用いられてきませんでした.

本研究の成果

 防災科研・京都大学・東北大学・GNS Science (ニュージーランド) らの研究グループは、詳細な沿岸地形データを用いた津波数値計算を行い,海底圧力計が記録した沿岸反射波の再現に成功しました.さらに,津波波源からの直達波・反射波の記録を活用して,テ・アラロア地震の断層面のすべりの分布を高い精度で推定することに成功し,地震時に解放された応力は通常の地震と比べてやや小さいことを明らかにしました.

今後の展望

 近年,DONETやS-netなど日本近海でも沖合の海底津波観測網が広く展開されつつあり,これに伴って沿岸反射波を含む「津波後続波」の観測事例は増えると期待されます.この研究は,沖合の津波記録に詳細な沿岸地形データを組み合わせると,沖合の地震の情報を詳しく抽出できるようになることを示しています.したがって本研究は津波後続波および沖合津波観測網の活用可能性を示すと言えます.

本研究は,JSPS科研費JP26257206およびJP26000002の助成を受けて進められたものです.防災科学技術研究所の研究プロジェクト「地震・津波予測技術の戦略的高度化研究」において進められました.
海底圧力計の設置・回収にあたっては,ニュージーランド国立大気水圏研究所 (NIWA, the National Institute of Water and Atmospheric Research) の研究船「Tangaroa」を用いて実施されました.

掲載情報

本成果は,2018年9月19日に米国地球物理学連合 (American Geophysical Union, AGU) 発行の学術誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」に掲載されました (https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/2018JB015832).また,本論文の図が,該当論文の掲載号の表紙を飾りました (https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/toc/21699356/2018/123/10).

論文:Kubota, T., Saito, T., Ito, Y., Kaneko, Y., Wallace, L. M., Suzuki, S., Hino, R., & Henrys, S. (2018). Using tsunami waves reflected at the coast to improve offshore earthquake source parameters: Application to the 2016 Mw 7.1 Te Araroa earthquake, New Zealand. Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 123, 8767–8779. https://doi.org/10.1029/2018JB015832

図の説明

(a) 2016年テ・アラロア地震の震源断層と津波波源の波高分布.(b) 海底圧力計により観測された津波記録 (黒線) と,(a) の断層から計算された津波波形 (赤線).