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海底圧力計を地震計として利用したCMT解の推定

【キーポイント】

久保田達矢1・齊藤竜彦1・鈴木亘1・日野亮太2

[1] 防災科学技術研究所, [2] 東北大学

doi:10.1002/2017GL075386
Date: 2017-10-26

(a) 本研究で対象とした2011年3月9日 (Mw 7.3,赤星)・10日の地震 (Mw 6.5,青星) の震央と,津波波形解析から得られた各イベント破壊域 (矩形).海底圧力計の位置を緑の三角で,各イベントの解析に用いたF-netの陸上地震計を,対応する色の三角で示す.F-net MT解を灰色で,本研究で推定したCMT解を赤 (9日),青 (10日) で示した.(b) 3月9日の地震における動的圧力変動波形の比較.黒は観測,灰色はF-net MT解から計算した波形,赤は推定されたCMT解から計算した波形.観測点GJT3はCMT解の推定に使用したが,P09はCMT解推定には使用していない. (c) 3月10日の地震における動的圧力変動波形の比較.図の説明は(b)と同様.

背景

 海底圧力計は沖合の地震による津波 (海面の変動) や,海底のゆっくりとした上下方向の動き (地殻変動) の観測に広く用いられてきた.それと同時に,海底圧力計は地震動に起因する短周期な圧力変動 (動的圧力変動) も観測する.この動的圧力変動は,海底の上下動加速度に比例することが知られており,海底圧力計は擬似的な上下動加速度地震計として用いることができると考えられる.しかし,そのように海底圧力計を地震計として活用し,地震の震源過程を求めた研究はこれまでになかった.

 一般に,地震計の記録を用いて沖合の地震のセントロイドモーメントテンソル (CMT) 解を推定する場合,陸上の地震計だけを用いた場合では,観測点配置に偏りが生じ,セントロイドの水平位置を正確に拘束することが難しい.もし沖合で観測した動的圧力変動を地震波の解析に活用できれば観測点配置の偏りが改善し,沖合で発生した地震のセントロイド位置,特にその水平位置の推定精度の向上に資すると期待される.これまで,東北沖の海域では,東北大学によって繰り返し海底圧力観測が行われてきており,沖合で発生した地震の圧力変動を観測してきた.防災科学技術研究所・東北大学らの研究グループは,海底圧力計が捉えた動的圧力変動記録を活用し,セントロイドモーメントテンソル (CMT) 解の推定を試み,その水平位置の推定精度の検討を行った.

本研究の成果

 本研究で解析した2つの沖合の地震において,いずれも海底圧力計の波形をよく再現する低角逆断層型のCMT解が,F-net MT解よりも陸側に推定された (図).また,セントロイドの水平位置は,先行研究の津波記録の解析で得られた各イベントの断層 (図,赤/青矩形) の中央とよく一致する.一方で,陸域の地震計の記録のみを用いて推定されたCMT解は実際の断層よりも沖側に位置していた.このCMT解から海底圧力計の波形を理論計算すると,海底圧力計の波形を全く再現しなかった (図,黒線).また,水平位置の推定誤差も検討したところ,陸上記録のみの解析では東西方向 (陸から離れる方向) の水平位置をよく拘束できていなかった.震源域の沖側に展開された海底圧力計の動的圧力変を利用することで,セントロイドの水平位置の推定精度が劇的に向上した.

今後の展望

 これまで,沖合の海底圧力計の観測は広く行われてきたが,その用途は津波および地殻変動の解析が主であった.本研究の結果は,海底圧力計の記録はそれに加えて,より短周期な地震動成分も正しく記録できることを示しており,この記録を活用することで震源の推定精度が向上することを意味する.なお,海域における地震観測では,海底地震計も広く用いられているが,大きい地震動が入力すると波形が振り切れてしまうため,波形全体を記録することは難しい.震源のすぐそばで観測しても波形が振り切れることなく観測できるという点に動圧変動記録に大きな利点があると言える.

本研究は,文部科学省の「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究プロジェクト」およびJSPS科研費JP20244070, JP26000002, and JP15K17752の助成を受けて進められたものです.

掲載情報

本成果は,2017年10月26日に米国地球物理学連合 (American Geophysical Union, AGU) 発行の学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました (https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/2017GL075386).

論文:Kubota, T., Saito, T., Suzuki, W., & Hino, R. (2017). Estimation of Seismic Centroid Moment Tensor Using Ocean Bottom Pressure Gauges as Seismometers. Geophysical Research Letters, 44, 10,907–10,915. https://doi.org/10.1002/2017GL075386

図の説明

(a) 本研究で対象とした2011年3月9日 (Mw 7.3,赤星)・10日の地震 (Mw 6.5,青星) の震央と,津波波形解析から得られた各イベント破壊域 (矩形).海底圧力計の位置を緑の三角で,各イベントの解析に用いたF-netの陸上地震計を,対応する色の三角で示す.F-net MT解を灰色で,本研究で推定したCMT解を赤 (9日),青 (10日) で示した.(b) 3月9日の地震における動的圧力変動波形の比較.黒は観測,灰色はF-net MT解から計算した波形,赤は推定されたCMT解から計算した波形.観測点GJT3はCMT解の推定に使用したが,P09はCMT解推定には使用していない. (c) 3月10日の地震における動的圧力変動波形の比較.図の説明は(b)と同様.