防災科研へのリンク

2011年宮城沖スラブ内地震の共役断層の同時破壊と東北沖地震後のスラブ内応力場

【キーポイント】

久保田達矢1・日野亮太1・稲津大祐2・伊藤喜宏3・飯沼卓史4

[1] 東北大学大学院理学研究科, [2] 東京大学海洋アライアンス, [3] 京都大学防災研究所, [4] 海洋研究開発機構

doi:10.1002/2015GL066101
Date: 2015-11-19

図 (a) 2011年7月10日の地震の断層モデルから得られる津波波源分布.赤および青はそれぞれ隆起,沈降の領域を示す.緑色の逆三角形は観測点の位置を表す.白星および灰色の点は7月10日の地震の震央とその余震 (Obana et al., 2013) を,赤星はGlobal CMTのセントロイドを表す.黒星は東北沖地震の震央 (Suzuki et al., 2012) を表す.(b) A–A’ および (c) B–B’側線に沿った鉛直断面図.最良モデルの断層の位置と余震分布も示した.スラブ内浅部の応力場の模式図も示してある.

背景

 日本海溝周辺の沈み込む太平洋プレート (太平洋スラブ) 内では,沈み込みに伴う折れ曲がりに伴って浅部 (上面) では水平引張応力が生じて正断層型地震が,深部 (下面) では水平圧縮応力が生じて逆断層型地震が発生することが知られている.これまで,2011年東北地方太平洋沖地震 (以下,東北沖地震) に伴う応力変化によって東北沖地震のすべり域沖側のアウターライズ域や陸側スラブ内では地震活動度が変化したことが示唆されているが,東北沖地震の地震時すべりが大きかった領域の直下におけるスラブ内応力場が東北沖地震に伴ってどのように変化したかは,これまで明らかにされてこなかった.

 東北沖地震の4か月後の2011年7月10日に,東北沖地震のすべりの大きかった領域の直下においてMw 7.0の横ずれ型地震が発生した (図).このスラブ内横ずれ地震の引張軸は水平でほぼ東西方向を向いており,スラブ内浅部に生じている水平引張応力の向きと対応することから,この地震はスラブ上面の水平引張応力場に関係して発生した地震であると考えられる.

 この地震の地震発生時,東北大学によって6台の自己浮上式海底圧力計が震源域に展開されており,この地震による津波と地殻変動を明瞭にを観測した.本研究では,この海底圧力データを用いて震源断層モデルを詳細に推定し,その結果にもとづいて東北沖地震後のスラブ内応力場との関連について議論した.

結果と考察

 観測波形をもっともよく説明した断層モデルは,共役な2つの節面に沿って断層が同時に破壊したモデルだった (図b, c).また,この共役な断層は海底地震計を用いて決定された余震分布の線状の配列ともよく対応する.そのため,この地震においては共役な2枚の断層面が同時に破壊した可能性が高い.

 東北東—西南西方向 (図a,A-A’) の断層面の走向はこの海域に発達する地磁気異常の縞模様の方向と一致する.地磁気異常の縞模様は,過去に海嶺から湧き出したマグマが冷えて海洋底となり海嶺の両側へ拡大していく際にその時代の残留磁気を獲得することによって生じる.さらに,拡大軸の周辺ではその拡大に伴って引張場となっていることから,拡大軸に平行な走向を持つ正断層が発達する.拡大時に生じた断層は厚くなったプレートの表層に既存の弱面として残ることから,この断層は過去のプレート拡大時に形成された弱面が日本海溝において沈み込んだのち,折れ曲がり応力によって再活動して破壊したものと解釈される.また,南南東—北北西方向の配列 (B-B’) は,地磁気異常の縞模様に直交するトランスフォーム型のフラクチャーゾーンの方向と一致する.また,プレートの拡大時には,それに直交する横ずれ断層であるトランスフォーム断層が形成されることから,この断層も過去に生じた弱面の再活動であると解釈される.

 推定された断層の下端は,プレート境界 (スラブ表面) から約20 kmの深さと推定された.この深さは,東北沖地震以前の地震データの解析により得られていた,水平引張,圧縮応力が入れ替わる応力中立域の深さは (スラブの表面から~15km) と概ね一致する.先行研究によると,東北沖地震震源域の沖側 (アウターライズ域) のスラブ内では東北沖地震後に水平引張応力場が卓越した可能性が,陸側のスラブ内では水平圧縮応力場が卓越した可能性が指摘されたが,東北沖地震の大すべり域の直下での応力場の変化はこれらの領域と比べると大きくなかったと考えられる.

今後の展望

 このように東北沖地震に伴う応力変化によって沈み込む太平洋プレート (スラブ) 内部の応力場が大きく変化したことが明らかとなりつつある.今後,このスラブ内部の応力場がどのように東北沖地震の発生前の状態に推移していく (戻っていく) かは,巨大地震が発生してから再び次の巨大地震が発生するまでの過程を理解し,沈み込み帯でのダイナミクスを理解するうえで重要である.今後も,スラブ内で発生する地震活動を継続的にモニタリングしていくことが重要である.

本研究は,文部科学省の「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究プロジェクト」およびJSPS科研費JP20244070, JP26000002, and JP15K17752の助成を受けて進められたものです.

掲載情報

本成果は,2015年11月19日に米国地球物理学連合 (American Geophysical Union, AGU) 発行の学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました (https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/2015GL066101).

論文:Kubota, T., Hino, R., Inazu, D., Ito, Y., & Iinuma, T. (2015). Complicated rupture process of the Mw 7.0 intraslab strike-slip earthquake in the Tohoku region on 10 July 2011 revealed by near-field pressure records. Geophysical Research Letters, 42, 9733–9739. https://doi.org/10.1002/2015GL066101

図の説明

図 (a) 2011年7月10日の地震の断層モデルから得られる津波波源分布.赤および青はそれぞれ隆起,沈降の領域を示す.緑色の逆三角形は観測点の位置を表す.白星および灰色の点は7月10日の地震の震央とその余震 (Obana et al., 2013) を,赤星はGlobal CMTのセントロイドを表す.黒星は東北沖地震の震央 (Suzuki et al., 2012) を表す.(b) A–A’ および (c) B–B’側線に沿った鉛直断面図.最良モデルの断層の位置と余震分布も示した.スラブ内浅部の応力場の模式図も示してある.