[1] 防災科学技術研究所
doi:10.1029/2026GL122518
Date: 2026-07-09
背景
2011年東北地方太平洋沖地震(東北地震)では,日本海溝付近のプレート境界浅部で非常に大きな断層すべりが生じ,巨大津波を引き起こした.このような巨大地震の発生メカニズムを理解するためには,プレート境界面の断層すべりがどのように生じたか(すべり分布)に加えて,すべりの駆動源となる応力が,どのように蓄積され,地震時にどのように解放されたか(応力降下分布)を調べることが重要である.これまで,数多くの東北地震のすべり分布が推定され,その発生メカニズムが議論されてきたが,その大半は,地表や海底が平らで,地殻が一様な硬さを持つと仮定した単純なモデル(半無限均質媒質)が用いられてきた.半無限均質媒質は,断層すべりによる地殻変動を解析的に高速に計算できるため,断層モデルの推定や津波計算に現在でも広く利用されてきた.
しかし,実際には,海底地形は大きく起伏し,かつ,地下には柔らかい堆積層をはじめとする地殻構造の不均質性があることが知られており,これらの3次元的な構造を考慮した現実的な解析の重要性が改めて認識されつつある.近年では計算機性能の向上により,実際の3次元構造を取り入れた解析も現実的になってきている.一方で,3次元構造を考慮することによる具体的な影響,たとえば,推定される断層すべりがどのように変わるか,あるいは津波の励起過程や応力降下の推定結果にどのように影響するか,さらに,影響するとすればその原因は地下構造なのか,海底地形なのかといった点はこれまで十分に整理されていなかった.本研究では,これらの影響を明らかにすることを目的として,日本海溝周辺の3次元構造を考慮した東北地震の解析を実施し,それぞれが津波励起や応力降下に与える影響を議論した.
3次元有限要素解析を取り入れた断層すべり分布推定
本研究では,日本海溝周辺の実際の海底地形と地下構造を取り入れた3次元有限要素モデルを構築した(図1a,3Dモデル).この3Dモデルでは,プレート境界の形状や海底地形,海溝付近の柔らかい堆積層といった3次元構造を現実に近い形で再現している.本研究では,まず,この3Dモデルを用いた有限要素法(FEM)解析により,東北地震の断層すべり分布を推定した(図1b).その結果,3次元構造を考慮すると,推定される最大すべり量は従来の半無限均質媒質を仮定した解析(図1b,灰色線)よりも約20%小さくなり,すべりピークの位置も陸側に約20 km移動することが分かった.一方で,マグニチュードや平均応力降下量は従来モデルとほぼ同じ結果となった.この結果は,マグニチュードや平均的な応力降下などの,地震の全体像の理解には,従来用いられてきた半無限媒質モデルでも十分有効であることを示している.一方で,最大すべり位置や応力降下の詳細な分布などの地震の詳細を議論する場合には,海底地形や地下構造を考慮した3次元モデルが重要であることを意味する.
3次元構造は津波と応力降下に異なる影響を与える
次に,上記で推定したすべり分布をもとにFEM解析を実施し,3次元構造が,実際の海面波高の変化(津波波源)とプレート境界での応力降下の計算に与える影響を評価した.この解析では,「海底地形と構造不均質性の両方を考慮した場合」「構造不均質性のみを考慮した場合」,「海底地形のみを考慮した場合」,「両者を考慮しない,従来の単純化した半無限媒質モデル」の4種類の構造をもとにFEM解析を実施した.このように条件を一つずつ変えながら比較することで,海底地形,地下構造がどのように影響するかを切り分けて評価した.
解析の結果,津波の発生と応力降下では,3次元構造の影響の現れ方が異なっていたことがわかった.津波波源分布(図1c)では,地下構造よりも海底地形の影響を強く受けることが分かった.海底の起伏を考慮すると,日本海溝付近での海面隆起量は最大で約20%大きくなったが,その一方で,構造不均質性を考慮しても隆起量はさほど変わらないことがわかった.これに対し,プレート境界での応力降下分布(図1d)は,海底地形と地下構造の両方に影響される結果となった.特に,柔らかい堆積層が厚く存在する三陸沖では,海溝付近の応力降下が小さく見積もられ,堆積層の薄い福島沖では逆に応力降下が大きく見積もられるなど,南北の構造の違いを反映する結果となった.
3次元解析が必要となる場面とは?
本研究では,3次元構造を考慮すると解析結果の細かな分布は変化するものの,巨大地震全体の特徴まで大きく変わるわけではないことが明らかになった.地震の全体像の理解には,従来用いられてきた半無限媒質モデルでも十分有効である.一方で,最大すべり位置や応力降下の詳細な分布,津波の発生過程などを議論する場合には,海底地形や地下構造を考慮した3次元モデルが重要である.これらを鑑みると,今回の研究は,巨大地震の解析において半無限均質媒質でも十分な場合と,3次元構造が不可欠な場合を整理した研究と位置付けることができる.従来の半無限均質媒質を仮定した解析は高速で計算が可能であるという大きな利点がある一方で,3D FEMには現実に近い現象を計算できるという利点がある.両者の利点を考慮しつつ,最適な解析手法を用いることが重要であろう.今回の解析は,東北地震を例として行ったものであり,他の巨大地震ではどのように影響が現れるのかは明らかではない.今後は,他の沈み込み帯で発生した巨大地震についても同様の解析を進めることで,3次元構造の影響がどの程度一般的なものなのかを明らかにすることも重要であろう.
本研究は,JSPS科研費JP22K14126,JP23K03536,JP24H00258の助成を受けました.
掲載情報
本成果は,2026年7月9日に米国地球物理学連合 (American Geophysical Union, AGU) 発行の学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました (
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/2026GL122518).
論文:Kubota, T., & Saito, T. (2026). Does three-dimensional structure affect tsunami excitation and stress drop estimates? - The case of the 2011 Tohoku earthquake.
Geophysical Research Letters,
53, e2026GL122518.
https://doi.org/10.1029/2026GL122518
図1の説明
(a) 解析に使用した3Dモデル.(b) 3次元構造を考慮して推定された2011年東北地震のプレートすべりの分布.灰色線は半無限均質媒質を仮定して推定されたすべり分布を表す.(c) 図1bから計算された応力降下分布.灰色線は半無限均質媒質を仮定して推定した滑り分布(図1b,灰色線)から計算した応力降下分布を表す.(d) 図1bから計算された津波の波源の分布.