【キーポイント】
doi:10.1007/s00024-023-03296-w
地震モーメントテンソルのカタログには、地震の空間位置、発生時刻、マグニチュード、断層メカニズムに関する情報が含まれており、ルーチン解析によって日々発生する新たな地震の情報が蓄積されていっている。これまで地震学者は、地震学的知見や地震活動の履歴を考慮しつつ、日々の地震活動プロットした地図から、地域ごとの特徴的な地震活動やその時間的変動、地震間の類似性など、現在進行中の地震活動の特徴を把握をしてきた。しかし長期ルーチン解析によりモーメントテンソルカタログは膨大ものとなっており、職人的な手法から脱却する必要がでてきている。本研究では、地震学者が直感的に捉えてきた地震活動のイメージを客観的に取得し、地震メカニズムの空間的・時間的特性に関する知見を得ることを目的とし、次元削減を用いた探索的データ解析をモーメントテンソルカタログに適用し、このアプローチの有用性を調べた。
解析対象は、防災科研F-netのルーチン解析で得られている2003~2019年までの計15,812イベントのモーメントテンソル解である。次元削減手法は線形(例えば主成分分析)と非線形(例えば自己組織化マップやt-SNE)に分けられる。不均質かつ不連続な地震分布を考慮して、ここではグラフベースの非線形次元削減手法の一つであるUMAPを用いた。グラフベースの非線形次元削減手法は、データの局所的な構造や非線形性を保持しながら高次元データを低次元空間に写像することができ、この低次元空間を詳しく調べることで元データの基本構造を理解することにつながる。F-netモーメントテンソルカタログの震源パラメータのうち、地震の空間位置(緯度、経度、震源深さ)およびsource-mechanism diagram情報を、UMAPによって2次元空間に埋め込んだ。
2次元空間の埋め込みマップ上では、東日本と西日本の地震が別々に分布しており、さらに各地域の特徴的な断層運動メカニズムや震源深さを反映して地震が埋め込まれる。埋め込みマップ上の距離は地震の類似度として用いることができる。本研究は、次元削減を用いたデータ可視化が地震メカニズムの地域特性を直感的かつ客観的に理解するために有用であることを示した。また埋め込みマップは、地域の地震活動の時間変化を可視化したり、過去イベントとの類似検索を行ったりすることにも利用できることも示した。
本研究は、文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト)JPJ010217の助成を受けたものです。
本成果は2023年6月7日に学術誌「Pure and Applied Geophysics」に掲載されました:
Kubo, H., Kimura, T. & Shiomi, K. Exploratory Data Analysis of Earthquake Moment Tensor Catalog in Japan Using Non-linear Graph-Based Dimensionality Reduction. Pure Appl. Geophys. 75, 180 (2023). https://doi.org/10.1007/s00024-023-03296-w