1防災科学技術研究所, 2電力中央研究所
doi:10.1186/s40623-023-01878-5
Date: 2023-8-18
研究内容
GNSSをはじめとする陸上での地殻変動データを用いて、大地震の断層破壊過程、特に静的な断層すべりの広がりを推定することは一般的によく行われている。ただし海域で発生する地震を解析する場合、陸上地殻変動データは観測地点から離れた海域では解像度が低下するため、精度よく断層すべりを推定することは難しい。そこで本研究では海底測地データの一つである津波波源データに着目する。津波波源データは、津波波形記録から逆推定された震源域直上の海底における鉛直変位の面的空間分布である。この研究では地殻変動データを用いた矩形断層面の推定問題を考え、津波波源データを活用することによって推定精度がどのように向上するのかを調べた。海域の浅い地殻内地震であった2016年福島沖地震(
Mw7.0)を対象として、GNSSデータのみ、津波波源データのみ、GNSSデータと津波波源データの組み合わせの3つのインバージョンによって矩形断層面モデルを推定し、それぞれの解を比較した。
その結果、GNSSデータのみ用いた場合はその低解像度のために解の不確かさが大きくなること、また解にバイアスが生じ、解の分布全体として余震分布やメカニズム解、先行研究の解析結果と食い違うことが分かった。他方で津波波源データを用いることで、解像度と信頼性が大幅に向上し、解の不確定性が減じられ、パラメータ間の依存関係が改善するとともに、余震分布などと整合する解が得られた。これらの結果から、津波波源データという高分解能な面的地殻変動データは、海域浅部地震の解析において強力なツールとなると言える。またGNSSと津波波源データという2つの異なるデータを用いることで、よりロバストな推定となることもわかった。
本研究で着目した津波波源データは、事後の詳細な断層破壊過程解析だけでなく、現在はGNSSデータが利用されている地震直後の断層破壊域の推定にも有用であると考える。
本研究はJSPS科研費JP21K14019の助成を受けて進められたものです。
論文情報
本成果は2023年8月18日に学術誌「Earth, Planets and Space」に掲載されました:
Kubo, H., Kubota, T., Suzuki, W., and Nakamura, T. On the use of tsunami-source data for high-resolution fault imaging of offshore earthquakes.
Earth Planets Space 75, 125 (2023).
https://doi.org/10.1186/s40623-023-01878-5
図の説明
(a) GNSSデータと津波波源データの両方を使ったジョイントインバージョン、(b) GNSSデータのみを使ったインバージョン、(c) 津波波源データのみを用いたインバージョンにおける解の分布を示す。上段に最適解(黒枠)および解アンサンブルの空間分布(カラー分布)を、下段にアンサンブルから抽出した40モデル(灰色枠)と最適解(紫塗りの黒枠)を示す。星は2016年福島県沖地震の震央を、上段の灰色丸は本震発生後1日以内に発生した余震(M≧3)を、下段の灰色震源球は同地震のF-netモーメントテンソル解を、青枠震源球は各インバージョンの最適解のメカニズム解を表す。