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2022年トンガ火山噴火に伴って日本周辺に到来した海洋波の詳細

【キーポイント】

久保久彦1久保田達矢1鈴木亘1青井真1三反畑修1近貞直孝1上田英樹1

1防災科学技術研究所

doi:10.1186/s40623-022-01663-w
Date: 2022-7-4

研究内容

2022年1月15日に、南太平洋トンガ諸島のフンガ・トンガーフンガ・ハアパイ火山において大規模な噴火が発生し、顕著な気圧波と太平洋を横断する海洋波が生じた。日本の太平洋側には防災科研の海底地震津波観測網S-net(*1)とDONET(*2)が展開しており、それらの海底圧力計によってトンガ火山噴火に伴って生じた海洋波が海底での圧力変化の形で観測された。本研究では、日本周辺に到来した海洋波の性質を明らかにするために、これらの海底圧力波形記録の詳細を調べた。


その結果、日本時間20-21時と22時以降において顕著な海洋波の波群が到来していたことが分かった。20-21時においては、正の極性(圧力増加)を持ち、長周期成分(1000-3000秒)が顕著なパルスが、S-netとDONETの両観測網で見られた(図中のP1とQ1)。このパルスは南東方向(日本から見たトンガの方向)から到来しており、その到達時刻は火山噴火による直接的な津波の想定到達時刻よりも早く、トンガと日本の間の大円経路を約300 m/sの速度で伝播したと仮定すると説明することができる。22時以降には、比較的短周期成分(1000秒以下)が卓越した顕著な波群(図中のP2とQ2)とそれに続く後続波の南東方向からの到来が両観測網で見出された。また23時30分頃にDONETでは短周期成分(約500秒)が顕著な波群が南南東方向から到来していた(図中のP3)。

海溝軸近傍のS-net観測点の多くでは20-21時に海底圧力の大きさが最大となっていたが、沿岸のS-net観測点とDONET観測点では22時以降に海底圧力の大きさが最大となっていた。観測点の水深が浅くなると海底圧力の変化がより大きくなることが知られている。二つの時間帯でこの増幅の仕方が異なっており、この違いはそれぞれの時間帯に到来していた海洋波および気圧波の性質の違いに起因していると考えられる。



さらに日本周辺で観測された海洋波の起源を探るために、日本国内での大気圧の観測データと海底圧力データを合わせた解析を行った(動画)。大気圧データとして防災科研の基盤火山観測網V-net(*3)の微気圧計とウェザーニューズの気象IoTセンサー ソラテナ(*4)の観測記録を調べた。その結果、顕著な海洋波の波群に対応する形で、気圧波の波群が複数到来していたことが分かった。この結果は、2022年トンガ噴火によって放出された複数の気圧波と海洋波との相互作用が、日本周辺で観測された複雑な海洋波の形成に寄与していたことを示唆する。

論文情報

本成果は、2022年7月4日にSpringer Open発行の学術誌「Earth, Planets and Space」に掲載されました:
Kubo, H., T. Kubota, W. Suzuki, S. Aoi, O. Sandanbata, N. Chikasada, and H. Ueda (2022) Ocean-wave phenomenon around Japan due to the 2022 Tonga eruption observed by the wide and dense ocean-bottom pressure gauge networks, Earth, Planets and Space, 74, 104. https://doi.org/10.1186/s40623-022-01663-w
https://earth-planets-space.springeropen.com/articles/10.1186/s40623-022-01663-w


図の説明

(a) 観測点地図。S-netの観測点を青色の四角で、DONETの観測点をシアン色の四角で示す。オレンジ色の矢印は北から時計回りに140度の方向を示し、日本から見たトンガの方向とほぼ一致する。(b) 日本時間2022年1月15日20時から2022年1月16日3時までの海底圧力波形記録。青色の線はS-net、シアン色の線はDONETの記録を示す。顕著なフェイズであるP1・P2・Q1・Q2・Q3を灰色で示す。黒線は津波の理論到達時刻を示す。緑とピンクの線は、フンガ・トンガーフンガ・ハアパイ火山からの大円経路をそれぞれ300 m/sと220 m/sの速度で伝播してきたと仮定した場合の理論到達時刻を示す。

動画の説明

日本および日本付近における海底圧力および大気圧のスナップショット。四角印はS-netとDONETの観測データを、丸印はV-netとソラテナの観測データを示す。海底圧力と大気圧の描画には異なるカラーパレットを使用している。


用語の説明

※1 日本海溝海底地震津波観測網S-net
S-netは、地震計と水圧計が一体となった観測装置を海底ケーブルで接続し、これを日本海溝から千島海溝海域に至る東日本太平洋沖に設置し、リアルタイムに24時間連続で観測データを取得します。観測装置は150カ所に設置し、ケーブル全長は約5,500kmになります。
https://www.seafloor.bosai.go.jp/S-net/
https://doi.org/10.17598/NIED.0007

※2 地震・津波観測監視システムDONET
DONETは、巨大地震の破壊域である南海トラフ周辺の深海底に設置された地震・津波観測網です。10 km間隔で観測点が設置され、各観測点は、強震計・広帯域地震計・水圧計・ハイドロフォン・微差圧計・温度計から構成されています。海洋研究開発機構が開発・設置し、2016年4月に防災科研へ移管されました。各種センサーによる観測データは、防災科研へリアルタイムで配信・保存されています。
https://www.seafloor.bosai.go.jp/DONET/
https://doi.org/10.17598/NIED.0008

※3 基盤的火山観測網V-net
V-netは、火山噴火予測の実用化と火山防災を目指して、16火山に整備してきた観測網です。この観測網には、最近の三宅島・伊豆大島・伊豆東部火山群噴火の際に、その前兆を捉えた埋設式の地震・傾斜計を配備しています。さらに、マグマの蓄積状況を把握するためのGNSS、噴火の状態を理解するための広帯域地震計を備えています。それらの観測データは防災科研に伝送され、連続データとして保存・公開されています。
http://vivaweb2.bosai.go.jp/viva/v_explain.html
https://doi.org/10.17598/NIED.0006

※4 気象IoTセンサー ソラテナ
ソラテナは、株式会社ウェザーニューズが販売している気象IoTセンサーで、全国約3000カ所において気圧や気温、湿度など全6要素を1分毎に観測しています。2022年トンガ噴火に伴う日本の気圧変化を高密度に観測しており、その観測データは研究用途に限定する形でウェザーニューズより無償で提供されています。
https://wxtech.weathernews.com/soratena.html
https://jp.weathernews.com/news/38708/
https://global.weathernews.com/wp-content/uploads/2022/01/20220128_1.pdf